特別講演・シンポジウム等

 本大会でも、特別講演やシンポジウムを実施いたします。その他、オンライン開催という特徴を活かし、初日(9月17日)のオンライン懇親会の他、2日目(9月18日)の昼休憩の時間など、大会開催期間中のリアルタイム形式の他、オンデマンド視聴(の併用)も選択肢に入れ、準備委員会にてより深い学びと交流のための企画を進めております。

準備委員会企画特別講演(9月18日(日)9:30〜10:00)

ソーシャル・フィクションの方法

 講演者 Patricia Leavy(社会学者・作家)

 <司会:山口 洋典(立命館大学)>

今回、特別講演では「ソーシャル・フィクション(Social Fiction)」という新たな研究法を取り上げる。ソーシャル・フィクションとは、研究の過程で得た成果を架空のキャラクターの人生に紐付け、現実的なシナリオとして小説化し、研究者による実践を当事者にも響く口伝としてまとめあげるものである。特別講演で招聘するパトリシア・レヴィー(編)『Handbook of Arts-Based Research』(2017)によれば「学者と一般人のあいだの記述表現の分断を橋渡しする(bridge the academic-public writing divide)」(pp.514-515)もの、と位置づけられている。

 COVID-19の名のとおり、2019年12月8日に中国・武漢にて初めて確認されて以来、一定の時間が経過するものの、新型コロナウイルス感染症は未だ終息の見通しが立たない状況にある。そして、常に生々流転している現実の中で、最早「ニューノーマルとは言わないニューノーマル」な状態がもたらされている。そうした中、相次ぐ巨大災害、あらゆる機関でのSDGsの推進、ダイバーシティ&インクルージョンが重要視される中でのマイクロアグレッションやアンコンシャスバイアスの顕在化、人口減少の中で求められる地域経営、頻発する医療事故、これら現在進行形の社会課題は枚挙にいとまがない。

 一方、2005年3月22日に発行された「ぐるだいニュース28号」で報告されている雑誌改革にまつわる議論に象徴されるように、日本グループ・ダイナミックス学会では、実験的手法をもとにした行動科学をもとにした研究に加えて、当事者・実践家と共に事例・フィールドを扱った多様な研究が取り扱われるようになってきていることが確認されている。換言すれば、極めて多元的・重層的に社会が扱われ、語られる学会として、長い歴史を有している。そこで今回、「ソーシャル・フィクション」という新たな潮流に触れることを通して、実験か実践かの二分法を超えて、現代に生み出しうる研究のあり方について幅広く検討する機会としたい。

<講演者プロフィール>

 パトリシア・レヴィー博士は、国際的に著名な社会学者・ベストセラー作家。アートベース・リサーチの世界的な推進者として広く知られている。レヴィー博士は「ソーシャル・フィクション」という用語を生みだし、物語を研究手法として学際的に正統化を図る世界的な奮闘を牽引してきた。40冊以上の本を出版し、ノンフィクション、フィクションの両方で商業的、批評的成功を収め、作品は多くの言語に翻訳されている。最新作は『Re/Invention: Methods of Social Fiction』〔物語の創作力と研究法の刷新:ソーシャル・フィクションの方法〕。既刊により数十の書籍賞を受賞。近年では『Handbook of Arts-Based Research』〔アートベース・リサーチハンドブック〕が2018年USAベストブック賞(学術・教育書部門)、『Method Meets Art』〔研究法がアートに出会うとき〕が2021年USAベストブック賞(芸術部門)、短編小説集『Celestial Bodies: The Tess Lee and Jack Miller Novels』〔輝くものたち:テス・リーとジャック・ミラーの物語〕が2022年ファイアーバードブック賞(ロマンス部門)を受賞した。一連の業績に対して、ニューイングランド社会学会(NESA)、アメリカ創造学会(ACA)、アメリカ教育研究学会(AERA)、国際質的研究学会(ICQI)、全米美術教育協会(NAEF)からも賞を受賞している。2018年にはアメリカ女性殿堂から表彰され、ニューヨーク州立大学(SUNY)ニューポルツ校が「アートと社会正義のためのパトリシア・レヴィー賞」を設立した。公式ウェブサイトは www.patricialeavy.com

※同時通訳あり。本企画は、JSPS科研費18K02742、19K00723に関連する企画です。 (進行補佐:村山かなえ)


準備委員会企画シンポジウム(9月18日(日)10:00〜11:30)

実験・実践のリアリティと社会のアクチュアリティ:再現可能な一般性の発見と個別性からの普遍性の追求のあいだで

 企画者 山口 洋典(立命館大学)
 話題提供者 鮫島 輝美(関西医科大学)
 話題提供者 矢守 克也(京都大学)
 話題提供者 Patricia Leavy(社会学者・作家)
 <司会:山口 洋典(立命館大学)>

 2005年3月22日に発行された「ぐるだいニュース28号」で報告されている雑誌改革にまつわる議論に象徴されるように、日本グループ・ダイナミックス学会では、実験的手法をもとにした行動科学をもとにした研究に加えて、当事者・実践家と共に事例・フィールドを扱った多様な研究が取り扱われるようになってきている。そうした関心のもとで、2021年度の年次大会終了後から偶数月の第2火曜日にオンラインサロンを開催し、過去の「実験社会心理学研究」を講読する機会を設けてきた。参加者どうしの感想交流と素朴な関心の共有の中で、例えば「共有社会心理学が社会を失うと認知心理学化し、そもそも日常生活が実験室化しているような時代に生きている人間と死んでいる人間を扱っていては融合は不可能では?」や「心理学で人間を相手にするなら身体・環境・言語・発達の4つの観点が欠かせないと思われるが、環境と言語は社会構成主義が取り戻してくれたものの身体と発達がないのでは?」さらには「環境が人工的になってきているので、ゲームやバーチャルリアリティが日常になっている今、テクノロジー化された日常では実験室研究もありうるのでは?」といった問いをはじめ、今後の展望として「ダイナミックな研究ではなくエレガントな研究を」といった語りが得られた。

 今回、特別講演では「ソーシャル・フィクション(Social Fiction)」という新たな研究法を取り上げることとした。ソーシャル・フィクションとは、研究の過程で得た成果を架空のキャラクターの人生に紐付け、現実的なシナリオとして小説化し、研究者による実践を当事者にも響く口伝としてまとめあげるものである。特別講演で招聘するパトリシア・レヴィー(編)『Handbook of Arts-Based Research』(2017)によれば「学者と一般人のあいだの記述表現の分断を橋渡しする(bridge the academic-public writing divide)」(pp.514-515)もの、と位置づけられている。こうした新たな潮流に触れることを通して、実験か実践かの二分法を超えて、相次ぐ巨大災害、あらゆる機関でのSDGsの推進、ダイバーシティ&インクルージョンが重要視される中でのマイクロアグレッションやアンコンシャスバイアスの顕在化、人口減少の中で求められる地域経営、頻発する医療事故、そうした時代に生み出しうる研究のあり方について幅広く検討する機会としたい。

※同時通訳あり。本企画は、JSPS科研費18K02742、19K00723に関連する企画です。 (進行補佐:村山かなえ)


常任理事会企画シンポジウム(9月17日(土)13:30〜15:30)

コラボ・リクエストのこれまでとこれから

 企画者 日本グループ・ダイナミックス学会常任理事会
 話題提供者 榊 敏朗(合同会社SAT研究所)
 話題提供者 永合 由美子(BMDesign研究所)
 話題提供者 正木 郁太郎(東京女子大学)
 指定討論者 西田 公昭(立正大学)
 <司会:五十嵐 祐(名古屋大学)>

 2018年から始まったコラボ・リクエスト企画は、学会での発表の機会を通じて、心理学の専門的な知見をビジネスや課題解決に活かしたいというニーズを持つ企業やNPOなどのクライアント(団体)と、実社会に根ざした研究への志向性を持つ社会心理学の研究者とのマッチングを促進し、産学連携をベースとした実践知としての共同研究を創発しようとするユニークな試みである。これまでに多くのクライアントからの参加があり、共同研究としてその成果が結実した事例もある一方、残念ながらマッチングに至らなかった事例もある。クライアントと研究者のどちらにとっても、産学連携の潜在ニーズは十分存在するであろうが、多くの研究者にとっては、学術的な関心と産学連携が両立しうるのか、一定の成果を見越した研究計画をマネジメントできるのか、クライアントのリクエストに専門家として十分に応えられるのか、各種の懸念があるのもまた事実である。逆に、クライアントとしては、学会という場でどういった形でのコラボが期待されているのか、肝心のところを掴みきれていないのではという不安もあるだろう。

 本企画では、コラボ・リクエスト企画にこれまで参加いただいたクライアントの方々をお招きし、企業との共同研究をアクティブに実践してきた研究者、そしてフロアの参加者とともに、こうした懸念や不安を解消するためのヒントを探り、社会心理学のフィールドにおける産学連携のあるべき姿について議論していきたい。榊氏にはコラボ・リクエスト企画におけるマッチング成立の事例について、永合氏には不成立の事例について紹介いただき、それぞれクライアントの立場から見たコラボ・リクエスト企画の意義と、今後の課題・期待についてお話しいただく。正木氏には、社会心理学者として多様な企業との共同研究に携わってきたご自身の経験を踏まえ、クライアントと研究者のニーズをどのようにすり合わせ、実践知を達成していくのか、その萌芽となるアイデアを共有していただく。西田氏には、コラボ・リクエスト企画の発案者として、クライアント・研究者双方へのサジェスチョンを含めた指定討論をお願いする。